秋の日記

主にNEWS関連になるだろう雑記。

チュベローズで待ってる感想(ネタバレ含む)

今、『チュベローズで待ってる』を読み終えた。何から語っていけばいいのかわからないが、とにかく今までの加藤さんの作品の中で一番チュベローズで待ってるが好きになった。

 


チュベローズを読み始める前は何故今回は上下巻に分かれてるんだろうと不思議に思い、これは読み進めるの大変だろうなぁ、とそう思っていた。あと、読み終わるのにどれぐらい時間がかかるだろうか、とかそんなことも考えていた。

だけど私の予想に反して直ぐに読み終わった。ずっと熱中して読み続けていたから、体感としては一瞬だった。

閃光スクランブルから私は1時間刻みに読み進めていくという読み方をしてきたが、チュベローズでは展開が面白すぎて1時間という時間設定を無視したり、続きが気になって1日に何回もチュベローズを読んだ。最終的には下巻の140ページ〜最後まで一気に読み切ってしまった。それぐらい面白く、夢中になって読んだ。


上下巻読んで思ったが、2つは違う話だった。違う話なんだけど同じ話。

下巻を読み始めた時に私は、『加藤さんが書きたかったのはこっちの話で、上巻は後付けのようなもの。この話(下巻)をわかりやすくするための前情報だったのか?』と思った。上巻ももちろんとても面白かった。だけどそれ以上にスピード感や内容の濃さなど下巻は凄まじかった。目まぐるしく変わる世界に驚きながらも決して読者を振り落とさず、むしろ引き込んで離さなかった。

ざっくりとした内容を説明すると、上巻は主にホストの話だった。主人公は就活に失敗したけどお金が必要で、タイミングよくホストにスカウトされ、ホストとして働き始める。ホストとして働いてる間に色々ありつつも、2度目の就活で今度は成功する。大事なところはことごとく省きまくってるけどそんな話。

そしてそれから10年後が下巻の話だった。てっきり美津子が何故自殺したのかという理由を解明し、その相手に復讐していく話だと思っていた。3分の1程度は合ってると思うけど、それだけじゃなかった。色んな事件が起こり、色んな話が混ざり合っていた。だけどそれを詰め込みすぎとか一切思わなかった。どれもこれも目が離せない内容で、『どうなるの?!ねぇ!ねぇ!』と全部が気になって仕方なかった。

そして『これはエンターテイメントだな……』と読んでいて思った。Burn.の中でしつこく付き纏ってくる元カレを蹴散らすシーンがあり、そこでわざと色んな人間や色んな設定を盛り込んで大袈裟に蹴散らしていた。なぜ大袈裟に蹴散らしたかについて「エンターテイメントしようぜ。観客を楽しませてあげないと」とBurn.の登場人物が言っていた。『ああ、これだな』とチュベローズを読んでいて思った。伏線の張り方なんていくらでもある。ただ小説を読んでる人(観客)に最大限に楽しんでもらうために色んな事件が起こり、色んな話が混ざり合っていた。案の定私は読んでいてどの話もハラハラドキドキしたし、すごくすごく楽しかった。エンターテイメントを楽しんだ。

加藤さんの作り出した作品の内容自体面白いが、それにエンターテイメント性もプラスされている。面白くないわけがない。さすがアイドル。人を楽しませる天才だし、それを作品に盛り込めるのもすごい。

 

そーいえば脱線ついでに書いておきたいんだが、作中に出てた『ラジータ』って会社、傘を待たない蟻たちはのUndressに出てたあのラジータ?もしかしていつもこうやって前作の何かを出してた?これはお茶目ゴコロでやっていることなのか、それとも加藤シゲアキの作品の世界は全て繋がっているということなのか。もしも本当に全ての話が同一上の世界線だとしたらそれはすごくすごく面白い。でも世界ってそういうものだよね、それぞれがそれぞれの人生という物語を生きていて、自分が知らないだけで今もそれぞれの人生で色んな物語が起きている。だから同じ世界だとしても、一人一人違う物語が繰り広げられている。その物語の中で色んな不可思議なことや奇想天外なことが起きてても何もおかしくない。一続きになっていたのは渋谷だけじゃなく、加藤さんの作品自体どれも同じ世界で、少しずつ繋がっていた。実際はどういう意図でやっていることなのかわからないけど、私は勝手にそう解釈したので面白いなと思った。

 

あと加藤さんって素直じゃないと思った。チュベローズに限った話ではなく、他の加藤さんの作品でもそうだったけど、小説を読み進めていると、『流れ的にこの子と付き合うのかな?』とか『あの子がのちの結婚相手になるわけですね!』と、そういう予想を立てて見るけど、その予想を裏切ってくる。そしてポッと出の女とくっつく。最初は『なんでやねん』とか思ってたけど、よくよく考えたら私自身もそういう先が見えた展開好きじゃないし、ポッと出の女の方が何の感情もなくスッと受け入れられる。変に話の中に入り込んでる女だと読み進めてくうちに『この子やだなぁ』とか『個人的に好きなタイプの子ではない』と、そう思うことが多い。だからポッと出の女の方が好きだし、そういう展開の方が好きだ。加藤さんは素直じゃないのかもしれないけど、その思考大好きだわ。ありがとう。

 


話を元に戻す。

チュベローズの下巻を読み進めていくうちに色んなことが明らかになっていったけど、核心的なところは分からなかった。『何故美津子は自殺したんだろう』と。ユースケは親戚で一番地味だし堅実な感じの女性だったと美津子のことを言っていたけど、話が進むにつれて美津子はただの地味な女性ではなく、優秀な出来る女性だった。だからこそ主人公の方が弄ばれてたのかもしれない、手綱を握ってたのは美津子だったのかもしれない、とそう思っていた。

だけど最後の最後に判明した自殺の理由に私は安堵した。美津子は幸せでいたかった、ただそれだけだった。そして主人公のことも好きでいてくれた。それに『あー……やっとわかった』って無意識のうちにずっと泣いてた。泣きながら読み進めていた。

チュベローズで待ってたのは美津子だった。

 

 


そーいえば物語の最後に主人公が誰かから電話がかかってきていた。あの相手は誰からだったのか気になって調べたら『亜夢』という意見を多く見つけた。確かに飛行機の描写があって、亜夢が帰ってきたのかとそう連想するし、とても親しげな様子だったから亜夢なのかもしれない。だけど私はこの相手は『ミサキ』だったんじゃないかな、と思う。

完全に私の直感でしかないんだけど、最初に主人公と美津子を繋げたのはミサキだった。そしてホストのイロハを教えたのもミサキだった。その時に客を客だと思うな、と。「人を人と思わないで。ただの客。ただの金。光也はそういう最低な人間を演じればいいの」「中途半端な優しさとか慈しみみたいなのを持ってると苦しむのは自分だからね。客が風俗で働こうがヤクザから金借りようが万が一死のうが、知らんぷりできる強さを持って」と言った。

美津子が死んだと知った時、主人公はミサキのこの言葉を思い出していた。そして美津子が自殺したのは自分のせいだと思った。だけど実際の自殺の理由は美津子自身の決断だった。すごく幸せだったからこそ、自ら死を選択した。

主人公は美津子の自殺の理由を知って、またミサキの言葉を思い出したのかもしれない。そして主人公にとって美津子はただの客ではなかった、と。一番はじめにホストとしてミサキに教えられたことを主人公はできていなかった。だからたまたま電話がかかってきたミサキには特に泣いてることも、美津子を愛していたことも知られたくなかった。

あとは素直じゃない加藤さんのことだから作中に登場していない登場人物の可能性はある。例えば主人公の恋人や結婚相手とかね。

 

 

読んでる時も読み終わった時も思っていたが、あのイケメン加藤シゲアキが、アイドルの加藤シゲアキが、NEWSの加藤シゲアキがこんな作品を書くことに驚いて仕方ない。なんなんだこの世界観は。何故こうも大きな世界観を作り出せるのか!と驚いた。途中からもう作品に入り込みすぎて加藤さんの作品だということを忘れて読み進めていた。

正直、チュベローズの何がどう面白かったと言葉にするのはとても難しいけど、世界観も内容も登場人物もすごく面白かった。目が離せなかった。今までの加藤さんの作品の中で一番好きだとそう思った。

 

 


待って、私ずっと『チェベローズ』だと思ってた。『チュベローズ』なのね。勘違いしてた。